Story
私たちのうち、立ち上がって、イエス・キリストについて自分が信じていることを他の人々に語る者が、いったいどれほどいるでしょうか。 私たちのうち、自らの信仰がもはや自分という存在の不可分の一部となり、 問いかけてくる人すべてに喜んで宣べ伝えるに値するものとなった、と本当に確信している者が、どれほどいるでしょうか。イエスの弟子の一人であることは 決してたやすいことではありません。かつて主イエスはこう言われたからです。 「人々を警戒しなさい。彼らはあなたがたを衆議所に引き渡し……あなたがたはわたしのために、 総督や王たちの前に引き出され、彼らと異邦人とに対して証しをすることになる…… どう話そうか、何を言おうかと心配するには及ばない……語るべきことは、その時に 授けられる……またあなたがたは、わたしの名のために、すべての人に憎まれる。しかし、最後まで耐え忍ぶ者は 救われる。」(マタイ 10:17-22 (Matthew 10:17-22)) 三世紀の終わりごろ、マルコスという名のキリスト教徒の男がいました。彼は エジプトのブルルスとザアファランの両地方を治める長官でした。マルコスにはただ一人の娘 がいて、デミアナといいました。その美しさと優れた人柄は語り草となるほどでした。父は彼女を深く愛し、 真のキリスト教の道に従って育てるために、できる限りのことを尽くしました。
デミアナは自分の部屋の静けさの中で、祈ることと聖なる書物を読むことを愛しました。祈っている間、 救い主キリストの愛がその小さな心を満たすのを感じて、しばしば涙を流しました。 デミアナが年ごろになると、父は彼女を、自分の高貴な友人の一人と結婚させようとしましたが、デミアナは拒みました。 彼女は、自分はキリストの花嫁として身を捧げたのであり、生涯結婚することなく生きて、 主イエス・キリストにお仕えするつもりだと言いました。さらにデミアナは父に、町の郊外に 自分のための家を建ててくれるよう願い、そこで友人たちとともに、世とその誘惑から離れた 修道女として暮らせるようにと求めました。 彼女の義しい生活への深い望みを知った父は、しぶしぶデミアナの 願いをかなえ、大きな宮殿を建ててやりました。デミアナはその宮殿を修道院に造り変え、 四十人の友人たちとともにそこに暮らしました。彼女たちは皆、結婚していない乙女たちであり、主の御手が 彼女たちとともにあって、力と慰めを与えました。 そのころ、皇帝ディオクレティアヌスは、自分の偶像(アポロンとアルテミス)を拝むことを 拒むキリスト教徒たちを拷問し、殺し始めました。マルコスが、像の前にひざまずいて 香をたくよう求められたとき、彼は拒みました。しかしディオクレティアヌスは、 ローマ帝国においてより高い地位を与えると約束して、彼を説き伏せました。
父が偶像の前にひざまずいたと聞いたデミアナは、宮殿を出て ただちに父のもとへ行きました。彼女は言いました。「あなたを救うために血を流された救い主を否み、 悪魔が住む石の偶像にひざまずくとは、どうしてそんなことができたのですか。お父さま、あなたがなさったことは 臆病で恥ずべきことです。」マルコスは娘の言葉を聞いて、われに返りました。 彼は言いました。「ああ、私はなんと哀れな者か。どうして悪魔の罠に陥り、 あの無用の像どもを拝んでしまったのか。」 そして彼はただちに立ち上がり、ディオクレティアヌスのもとへ行きました。彼は皆の前で 父と子と聖霊の御名によって自らに十字架のしるしをし、大きな 声で叫びました。「すべての人よ、知るがよい。私は天と地の神、私のただ一人の神 にして主であるイエス・キリストを礼拝するのだ。」ディオクレティアヌスは心を乱し、 マルコスの考えを変えさせようと懸命に努めましたが、今度は聖霊が彼の心を 満たしていたので、彼はなおも大胆に証しし、救い主を否むくらいなら死ぬほうがよいと言いました。ディオクレティアヌスは激しく 怒り、兵士たちに彼を殺すよう命じました。 皇帝は、父の心を変えさせたのがマルコスの娘デミアナであったと知ると、 配下の指揮官の一人に、百人の兵士を率いて宮殿を襲うよう命じました。 ディオクレティアヌスは言いました。「まず、私たちの偶像を拝むよう彼女を説き伏せてみよ。
だが、もし彼女が拒むなら、脅し、拷問し、ついには殺してしまえ。そうすれば彼女は ほかのキリスト教徒たちへの見せしめとなるであろう。」 兵士たちが宮殿に近づくのを見たデミアナは、彼女たちの信仰が死に至るまで堅く 保たれるよう神に祈りました。それから友人たちに言いました。「もしあなたがたが イエスのために死ぬ覚悟があるなら、ここに留まりなさい。でも、もし兵士たちの拷問に耐えられないなら、 今すぐ急いで逃げるほうがよいでしょう。」四十人の乙女たちは、この悪しき世で ほんのわずかの間楽しむために、永遠の命を失うことなどしません、と答えました。 指揮官がディオクレティアヌスの言葉をデミアナに伝えると、彼女は答えました。「どうして 私が主にして神であるイエス・キリストを離れ、目も口も耳もない像の前にひざまずけましょうか。 あなたとあなたの皇帝こそ、自らの恥ずべき行いを恥じるべきです。はっきり言っておきますが、 たとえあなたが私を殺しても、私の信仰は揺らぐことはありません。」 指揮官はひどく恥じ入り、兵士たちにデミアナを さまざまな残酷な方法で拷問するよう命じました。恐ろしい痛みが全身を貫くのを感じながら、彼女は顔を 天に向けて上げ、祈りました。「私の主イエスよ、私を救うために 十字架につけられた、いと高き方の御子よ、この痛みに耐える力を私にお与えください。」四十人の
乙女たちはそれを見て泣いていましたが、デミアナは彼女たちに言いました。「泣かないで、私の姉妹たち。私たちの 主イエス・キリストは、ただ一つの罪も犯されなかったのに、私たちを愛してくださったがゆえに 拷問され、殺されたのです。ましてや私は、御名のために死を喜んで迎えるべきではないでしょうか。とりわけ、私を待っている 天の栄光を確信しているのですから。」 兵士たちがデミアナを拷問することに疲れ果てると、彼らは半ば死んだその体を 牢に投げ込みました。しかし大天使ミカエルが彼女に現れ、その天の翼で彼女に触れ、 傷を癒やしました。翌日、指揮官は彼女が死んだものと思っていましたが、彼女が すっかり健やかな姿で自分の前に立ったのを見て、ひどく当惑しました。何人かの人々がそこで起こったことを 見て、叫びました。「私たちはキリスト教徒です。私たちはデミアナの神を信じます。私たちには イエス・キリストのほかに神はいません。」指揮官はいっそう心を乱し、彼らを皆 殺しました。 デミアナへの拷問はさらに残酷な方法で幾日も続きましたが、そのたびに 何度も大天使ミカエルが現れて彼女を癒やしました。 殉教の前日、私たちの主イエスご自身が彼女のもとに来て、こう言われました。 「勇気を出しなさい、私の選びの者よ。私はあなたのために、天におけるあなたの婚礼の冠を
備えた。あなたの名は永遠に覚えられ、多くの奇跡の源となり、 この場所には、あなたの祝福された名をたたえて、大きな教会が建てられるであろう。」 ついに指揮官は兵士たちに、四十人の乙女たちとともに、デミアナを剣で 打ち首にするよう命じました。デミアナとともに殉教した人々の総数は、 およそ四百人にのぼりました。 数年後、コンスタンティヌス王(最初のキリスト教徒の王)が権力の座に就くと、 彼は母であるヘレナ王妃をデミアナの宮殿に遣わしました。ヘレナは、そこで見いだしたすべての遺体を 大いなる敬意をもって葬りました。彼女はデミアナの遺体を象牙でできた寝台に安置し、絹の亜麻布で 飾り、同じ場所に教会を建てました。 聖デミアナはまた、ベルカスに大きな修道院を有し、エジプトには彼女の名を 冠する多くの教会があります。 この偉大な殉教者、聖デミアナの祈りと祝福が、私たち皆とともにありますように。 アーメン